役に立つ判例情報と管理規約の工夫

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役に立つ判例情報と管理規約の工夫

役員報酬

管理組合と役員との関係は、民法上の「委任」に整理されます。
委任の場合、報酬の定めがない限りは無償を原則とすることになります(民法648条第1項)。
役員報酬を出すという方針を管理組合が採用することはできます。
この場合、管理規約上、役員報酬を支給することを明確にすべきです。
例えば、
「役員は、別に定める役員報酬規程に基づき、役員としての活動のための必要経費の支払及び報酬を受けることができる。」
などと定めておきます。
そして、報酬規程には、具体的な金額を定めるとともに、支払いのルール(支払いの時期、方法あるいは理事会欠席者に対する対応等)を定めておきます。
なお、必要経費については管理規約上に記載しなくても当然に支払いを求めることができます。ただし、疑義が生じないように明確化する趣旨で入れておくほうが良いでしょう。
上記のような案で整理した場合、役員報酬を支払うための規約変更は特別決議で、具体的な金額を定める報酬規定の作成は普通決議で足りるということになろうかと思います。

違約金としての弁護士費用の請求

管理費の滞納等の問題で弁護士を雇う場合に、その弁護士費用を管理組合が負担しなければならないとすると、財政難にある管理組合などでは弁護士を雇うことができないといった事態になりかねません。
そこで、多くの管理組合においては、規約違反者に対して「違約金としての弁護士費用を請求できる。 」趣旨の規約の定めを設けていて、これによって弁護士費用を違反者から回収することが可能になっています。
上記のような規約がない管理組合では、二つの対応が考えられます。
一つは、規約違反行為が不法行為に該当する場合に、不法行為に基づく損害として弁護士費用を請求する方法です。この場合は、あくまで不法行為(違法行為)であることが前提になりますので、通常の管理費滞納等の場合はこれに含まれません。
二つ目は、管理規約を改正して上記のような定めをおくという方法です。改正のタイミングは、訴訟提起の前に限らず、訴訟の係属中の改正であっても、裁判が終わるまで(口頭弁論の終結時)までに改正手続きが完了していれば違約金としての弁護士費用の請求は可能とされています(東京地裁平成24年5月29日)。
なお、強制執行費用等に関して、同様の判断がされたものとして東京地裁平成27年6月15日があります。

専有部分内に設置した看板の撤去

建物の外壁に広告用の看板を設置する行為は、共用部分の変更に該当すると解され、原則として総会決議が必要となります。
他方、専有部分に看板を設置する行為は、当該専有部分の所有者の自由というのが原則になります。
ところが、専有部分である居室内の窓際に、窓の外の通行人等から見えるような形で看板を設置する場合には、外壁に変更を加えるのと同様に、マンションの外観への影響が認められます。このような場合には、規約や使用細則でルールを定めることが考えられます。

専有部分内における「住居・事務所等内の基本構造を変更したり、その外観を変更すること。」を禁止する使用細則が定められている管理組合において、専有部分内の窓際に看板を設置した組合員に対して、管理組合から看板の撤去を求められた事案において、裁判所は、看板の設置が一時的なものではないことや、本件マンションが窓ガラスを多用した特長的な外観を有していることなどに照らし、使用細則に定める「外観変更」に該当するとの判断を示し、看板の撤去を求める管理組合の請求を認めました(東京地裁平成28年4月21日判決)。 

事務所や店舗が混在する管理組合においては、管理規約・使用細則の定め方を含めて参考にしたい事案です。

専有部分への立入り 

標準管理規約第23条では、管理者は、「管理を行うために必要な範囲内において、他の者が管理する専有部分又は…への立入りを請求することができる。」とし、請求を受けた者は、正当な理由がなければ拒否できないとしています。
共用部分の排水管等の更新工事及びアスベストの除去工事のための専有部分の立入りを拒否した事案において、裁判所は、すでに漏水が発生している点、アスベスト除去の必要性等を考慮し、管理組合からの請求を認めています(東京地裁平成27年3月26日)。
管理規約に上記のような立入り権限がある場合であっても、裁判にて立入権限の確認等を行って実行することになります。

防犯カメラの設置と閲覧 

防犯のため、防犯カメラを設置する工事をする場合には、集会において普通決議で行うことができます。普通決議事項ではありますが、プライバシーの問題があるので、設置についての事前アンケートなどを行うことも重要です。
防犯カメラが設置された場合、その「閲覧」についての問題が生じます。無制限に「閲覧」を認めれば、プライバシー侵害等につながるおそれがありますので、通常は規約や細則等により閲覧が認められる場合を限定します。また、手続的には理事会の許可を要件とするなど、運用が恣意的にならないように注意します。
どのような場合に閲覧を認めるかは各管理組合によりますが、警察等からの犯罪捜査等の協力要請があった場合に限定するものや、組合員からの閲覧請求に対しても認める場合があることを前提に、「犯罪被害があり、被害届を提出した場合」などに限定することもあります。
どの場合に閲覧を認めるかは事前のアンケートなどを活用して、組合員の理解を得られる範囲に限定すべきと言えます。

弔慰金規定

管理組合の組合員やその家族に不幸があった場合に、管理組合から弔慰金を支出することがあります。この場合の弔慰金は管理費会計からの支出となります。そもそも管理費会計から捻出することが許されるのかという視点からの議論もあり得るところですが、社会的に許容される範囲内の対象者、金額であれば許されると考えられるでしょう。
弔慰金の支払いの上で大事なのは、「あの人のときは払われた。」、「あの人のときは払われなかった。」というような不公平感を感じさせないことです。そのためには、細則を設け、「誰」が亡くなった場合に、「いくら」を支出するのかを明確にしておく必要があります。

会計裏付資料の閲覧請求・写真撮影請求

標準管理規約では、会計帳簿(帳票類)について、「理由を付した書面」による請求があったときは、これを閲覧させなければならないとされていますが、帳票類について規約に規定がなかったとしても、民法645条(委任)の報告義務に基づき帳票類を閲覧させる義務があるとされています(大阪高裁平成28年12月9日判決)。また、同判決は、同上の報告義務の履行として、少なくとも閲覧書類の写真撮影についてはこれを許容する義務を負うと判断しています。
民法645条を類推適用した上で、「個々の組合員からの求めがあれば、…報告義務の履行として…」と判示している部分については、管理者の報告義務について個々の組合員の請求に対し民法645条により直接報告をする義務を負担すべきものとはいえないと判示した東京地裁平成4年5月22日判決との関係が整理されるべきといえますが、当面、管理組合の対応としては、写真撮影については特段の理由がない限りは許容するという扱いが求められます。

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